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東京高等裁判所 昭和56年(ネ)257号 判決

控訴人

クムホ・ジャパン株式会社

右代表者

柳承馥

右訴訟代理人

関根稔

被控訴人

川崎信用金庫

右代表者

神戸瀧夫

右訴訟代理人

山口勝壽

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人が昭和五四年一一月一〇日締結の譲渡契約により訴外石原運送株式会社から別紙譲渡債権目録記載の債権を譲受けた行為は、控訴人と被控訴人との間においてこれを取消す。被控訴人は控訴人に対し、金三一八万円及びこれに対する本判決確定の日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、被控訴人において、「仮に訴外石原運送株式会社(以下単に石原運送という。)が被控訴人に本件債権を譲渡した当時詐害の意思を有していたとしても、被控訴人は当時右債権の譲受が他の債権者を害することを知らなかつた。」と述べ、控訴人において、被控訴人の右主張事実を否認し、被控訴人において、当審における証人深川憲治の証言を援用したほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

理由

一本件の請求原因事実に関する当裁判所の判断は、原判決理由中の一ないし三項に記載されたところと同一である(但し、五枚目表九行目「深川憲治」の次に「(原、当審)」を加え、六枚目裏一〇行目「匹迫」を「逼迫」と改め、七枚目表五行目「同社で」を「同社応接室で同社の専務取締役立会のもとに」と改め、同裏六行目「こと」の次に「及びその後被控訴人は、右譲受債権の債務者である横浜商運から右債権の弁済を受けたこと」を加える。)から、これを引用する。

判旨二右認定の事実によれば、被控訴人は、石原運送に対する手形買戻債権金四六〇万円の一部を預金債権で相殺した残額金三二六万五六四二円の債権の代物弁済として、石原運送の横浜商運に対する売掛金三一八万円の本件債権譲渡を受けたのであり、当時右石原運送は債務超過の状態にあつたのであるが、かような場合であつても、債務者が、他の債権者を害することを知りながら特定の債権者と通謀し、右債権者だけに優先的に債権の満足を得させる意図のもとに、右のような債権譲渡をなしたものであるときは、詐害行為として取消の対象になるものと解されるので、更に検討する。思うに、石原運送の代表取締役社長石原次郎(以下、単に石原次郎という。)が、本件債権譲渡をすることを承諾するに至つたのは、深川憲治らの強硬な要求の結果であること前認定のとおりである。なるほど、深川憲治らのした右要求が、脅迫的言辞を弄するなど常軌を逸する方法で石原次郎に対し不当な圧迫を加えてなされたというごとき事実を認めるべき何らの証拠もないから、ひつきよう、石原次郎は、なお通常の取引過程における意思決定の範囲内で、右承諾をなすに至つたものというべきであろう。しかし、証人深川憲治(原、当審)の証言によれば、石原次郎は、深川憲治らの支払要求に遁辞を弄していたが、引続き強い要求を受け、最後には、同席していた自社の専務取締役からの口添えもあつたので、しぶしぶ右承諾をするに至つたことが認められるのであつて、右事実によれば、石原次郎において、それが他の債権者を害することを知りながら、被控訴人だけに優先的に債権の満足を得させる意図をもつて、被控訴人と通謀し、右承諾をなしたものとまでみるのは相当でないというべきである。

そうすると、控訴人の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

三よつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(杉田洋一 中村修三 松岡登)

譲渡債権目録〈省略〉

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